うつ病を治すヒントが、「ハリー・ポッター」の物語に秘められているのをご存じだろうか。
ハリーの魔法の世界には、「ディメンター(吸魂鬼)」という恐ろしい生き物が出てくる。
ディメンターが傍に忍び寄って来ると、
「嫌な記憶」しか思い出せなくなり、
「もう二度と幸せな気分にはなれない」という絶望的な気分になるのだ。
そして、襲われると、口から魂を吸い取られ、死ぬよりも惨い状態にされてしまう。(怖すぎ……)
ディメンターは、主人公のハリーが最も恐れている生き物だ。
そう、宿敵である「例のあの人」よりも、ディメンターの方が恐ろしいとハリーは感じている。
まさに「恐怖そのもの」としてディメンターは描かれているのだ。
このディメンターは、そのまんま「うつ病」だ。
現に、作者のうつ病の体験から生まれた生き物らしい。
そして、うつ病を経験した私にも分かる。
ディメンターが忍び寄ってきたときの感覚が、どれだけ恐ろしい感覚か、ということが。
しかし、そんな恐怖のディメンターを撃退する魔法がある。
それは、
「自分にとって最高に幸せな思い出」を思い出し、
脳内でありありとイメージしながら、
「エクスペクト・パトローナム」という呪文を唱えることだ。
すると守護霊(パトローナス)が現れてディメンターを追い払ってくれる。
「なんだ、そんなことか」と思った方は、まだ理解が足りない。
うつ病のような絶望感のなかで、
悲しい記憶、つらい記憶しか頭の中に残されていない中で、
一体どれほどの人間がその魔法を使えるのだろうか。
実際、ハリーポッターの世界では、その魔法――守護霊の呪文は、非常に高度な魔法とされている。
高い能力のある魔法使いしか守護霊は作り出せないのだ。
この守護霊の生み出し方は、実は、
私が「うつ病の治療法」として使った方法の一部だ。
つまり「幸せな思い出」を無理やり思い出すことが、うつ病を治すことに繋がるのだ。
今回は、私がうつ病を治すために行った、ディメンター撃退術にならった方法をお伝えしようと思う。
闇の魔術に対する防衛術の先生になったつもりで。
ハリー・ポッター式、うつ病撃退術。
ディメンター、もとい、うつ病の絶望感を解消しよう。
なぜ幸せな記憶がうつ病を治すのか?
なぜ、「幸せな思い出」を強く思い浮かべることがうつ病を治すことに繋がるのか。
それは、
うつ病特有の「極端にネガティブに偏った思考」を、
幸せな思い出が
「偏りのない、バランスの取れた思考」へと正してくれるからだ。
極端にネガティブな思考というのは、
「もう一生幸せになれない」
「この世には良いことなんてひとつもない」
「人生は絶望的だ」
などといった考え方を指す。
これらは、頭の中の「嫌な記憶」を根拠にして生まれる。
うつ病になると、「嫌な記憶」ばかりで頭がいっぱいになり、
その悪い記憶をとても大げさに捉えてしまう。
そういう病気なのだ。
本当は「良い記憶」もそれなりにあるのに、
うつ病になると、良い記憶は忘れ去られてしまう。思い出せなくなってしまう。
つまり、
うつ病の「憂うつ」や「絶望感」というのは、「思考の偏り」に過ぎない。
頭の中で悪いことが誇張されて、良いことが過小評価されているだけ。
だから、思考の偏りを正せば「憂うつさ」や「絶望感」は薄れ、自然と心は軽くなっていく。
「そういえば、こんな良い事もあったよな」
と思い出すことで、
「この世は(悪いこともあるけれど、)そう悪いことばかりでもない」
という、バランスの取れた考え方へと正していけるのだ。
良い記憶でうつ病を治療する方法
良い記憶を思い出す
まずは、「良い記憶」を思い出してみよう。
別に「人生で一番幸せな記憶」というほどのものじゃなくて良い。
私にも、そんなに大した幸せな思い出というものは無い。
「ちょっと良い気分になったこと」で十分だ。
それを思い出せる限りたくさん思い出して、紙に書き出してみる。
最初は、全然思いつかない。
うつ病になると、良い記憶は心の奥に押し込めてしまうようだ。
でも、頑張って脳みその隅まで記憶を掘り返していく。
めっちゃくちゃ些細な出来事まで、恥を捨てて、全部思い出して書いてみる。
やってみて楽しかったこと。
他人に言われて、ちょっと嬉しかったこと。
多少なりとも「ポジティブな気分」になった出来事。
例えば、「コンビニの可愛い店員さんに微笑みかけられた(気がする)」程度のことまで、全部書き出してみる。
私は
「友達にこういう相談事をされた」とか
「大学で怖そうな見た目の人が友達になってくれた」
など、他人から存在を肯定された系の出来事が、良い思い出として残っている傾向にあった。
思い出をポジティブに捉える
うつ病になると、良いことを極端に過小評価しがちだ。
「良い思い出」のことを、
「こんなことを良い思い出と思うなんて恥ずかしい」
「こんなこと、普通に考えれば大したことない出来事だ」と思ってしまっていないか。
ここで一旦、思い出したことをちゃんとポジティブに捉えてみる。
卑屈さを一回忘れて。
「調子に乗る」感じで。
私は、自分が紙に書き出した「良い思い出」を、くだらないと思わずに、
ちゃんと「自分を良い気分にしてくれたもの」として、大切に思うことにした。
すると、これまでは
「私は人間のクズだ。皆にもそう思われている」
「私は女としても男性に誰一人として相手にされない」
と思っていたのが、
「私の存在価値をちゃんと認めてくれる人だっていたんだな」
「ちゃんと扱ってくれる男性だっていたな」
というように、偏った思考が直っていったのだ。
「良い出来事」が「絶望」を消してくれるわけ
さあ、授業は少し小難しい話に入ります。
興味がある人は読んでね。
うつ病の「絶望感」というのは、漠然としているようでいて、
実は意外と、頭の中では論理的に起こっているものだ。
もちろん、論理の飛躍はある。
傍から聞けば「いやいや、なんでそうなるの?」ということも多い。
だけど、当人の頭の中では、
「今までこういう嫌な出来事ばかりだった(論拠)。だからこれからも良いことが起きるわけがない。将来は絶望的だ。(結論)」と言う風に、説明がつくのだ。
だけど、
「良い思い出」を無理やり思い出し、
「良い事もあったじゃん!」という事実に気が付くと、それは
「絶望的だ」という結論を否定する出来事 =反証 になる。
すると、結論は論拠を失い、その論理は簡単に壊れてしまう。
「悪いことがあった。でも良いこともあった。だから将来は絶望的……?あれ?良いこともあったのになんで絶望的なの?おかしくね?」
という感じで、頭が「変だな」というのに気が付く。
そして、導き出される正しい結論はこうなる。
「こういう嫌な出来事があった。
でも、こういう良い出来事もあった。
だから、将来はいいこともあるかもしれないし、悪いこともあるかもしれない。」
そういう、極端にネガティブにもポジティブどちらにも偏っていない結論を見いだせると、
「そっか、将来が絶望的かなんて、まだ分からないんだ。まだ決めつけなくていいんだ」
「この先、100%悪いことしか起きないとは限らない。良いことも待っている可能性もあるんだ」
と気付くことができる。
それは、「将来はきっと良いことが起きる」「きっと明るい未来が待っている」などという、キラキラしたポジティブなものではないかもしれない。
だけど、そういった「胡散臭いキラキラした説」よりも、はるかに現実的で、納得感のいくものだと思う。
そういった、納得のいく結論が導き出されることで、
絶望という苦しみは解消されていく。
あなたのパトローナスを呼び出してみよう
ね、結構理にかなった療法でしょう。
さあ、あなたにとってのパトローナスを呼び寄せてみましょう。
守護霊はあなたの頭の中に既にいるのだから。
良い記憶を思い出して。
ひとつもないとは言わせない。
意識していないだけ。
忘れてしまってるだけ。
思い出すのは簡単じゃないかもしれない。
ひねり出すんです。
ハリー・ポッターの世界でも、
ハリーは最初、ディメンター(正確には、練習のため、ディメンターの姿をした別の妖怪)を前に何度も練習し、何度も失敗した。
「両親が殺される瞬間」という最悪の記憶を持っているせいで、ディメンターを前にすると失神を繰り返していたハリーも(この失神は、ハリー自身が自分の心を耐えがたい苦痛から守るための防御なんじゃないかと私は思っている)、
最後には守護霊の呪文が大得意になり、そのおかげで呪文の試験でも最優秀の成績を取っている。
絶望感の中で「良い気分」なんて思い出せそうもない?
それなら今は少し休んで、少し気分がマシになったタイミングでもう一度試してみて。
エクスペクト・パトローナム。
本当に私たちを救ってくれる、
私の好きな魔法です。
良い思い出、幸せな思い出を記憶から掘り出すことで、
本当に、魔法のように苦しみが解消される。
そんな素晴らしい感覚を得らえるのだから、やらない手は無いとは思いませんか。
ちなみに、守護霊(パトローナス)は、動物の姿をしているそうです。
私たちの守護霊がもし形をとったら、
どんな生き物の形をしているのだろう。
想像して夜を過ごすのも、ちょっと楽しいです。
▼うまく守護霊が呼び出せない夜はこちら
▼嫌な思い出を解消する魔法もあります(筆者作)